「組織の壁」をテーマに、毎回異なるゲストによるインスピレーショントークとワークショップで参加者の皆さんに何らかの気づきを持ち帰ってもらおうと開催している、INTO THE FABRICの看板イベント「Break the Wall」。これまで計6回開催し、延べ200名以上の皆さまにご参加いただいています。
 7回目となる今回は、「壁」の中でも特に「イノベーションを阻む壁」にフォーカス。ゲストには「ザ・ファーストペンギンス」著者の松波晴人さんと、株式会社HIZZLEの留目真伸さんをお迎えしました。新規事業や新しい価値の創造に取り組みながら「これ以上どうやって進めばいいのだろう?」と悩んでいる方々と一緒に、それぞれのブレークスルーについて考えました。

行動観察から生まれる“新しい価値”

 アメリカへの留学経験をもとに、2001年から大阪ガスで「行動観察」分野の研究をスタートされた松波さん。変化の激しい現代では新しい価値を生み続けなければ安定しなくなってきた、そんな今だからこそ「Reframe(リフレーム)」という考え方を用いてほしいと松波さんは語ります。Reframeとは今までとは違った捉え方をするとか、新しい枠組みで価値を前向きに考え直すこと。従来の価値軸に対して新しい価値軸を足すことで、まったく違う新しい価値を生み出す方法です。松波さんはこの考え方に、行動観察の手法でアプローチし、表面的にしか考えていなかった事項を、事実を観察することによって仮説を立て、新たな価値を創造しています。

企業に必要な“事業の再定義”

 外資系IT企業の代表取締役をはじめ、複数の企業でプロ経営者として組織を率いてきた留目さん。この7月からは資生堂のCSO(チーフストラテジーオフィサー)就任に加え、経営者を育てるコンサルティング会社を立ち上げられ、パラレルワークを実践されています。
自己紹介では、「デジタル時代のビジネスの考え方は、多大なコストをかけるよりも、ネットワーク効果を利用して価値を引き上げることで新規事業を発展させる手法や、これまでの工場生産的な考えから会社という枠組みを越えてプロジェクト単位で行っていくやり方にシフトしている。企業は「purpose(パーパス:目的)」に基づく事業の再定義が必要」と、力強く語りました。

インスピレーショントーク

 インスピレーショントーク(通称:“壁”トーク)では、モデレーターのINTO THE FABRIC高嶋からゲストのお2人に、“壁”にまつわるさまざまな質問を投げかけ、それぞれお答えいただきました。

– “今はまだ無い新しいこと”を始めるときに感じる組織の壁とは?

留目さん:新規事業に、パッションと自立性を併せ持つ稀有な人をアサインしても、他から潰されてしまうということがよくあります。新たなことに向かう人はいわば絶滅危惧種のようなもの。誰かが守ってあげて、社内外の人たちからの理解を得ることが不可欠です。

松波さん:新しいことを始めるときは、まずやっていること自体を無視されます。次に“秀才”に脅しをかけられる(笑)。でも結局、成果を出せば手のひらを返したようにみんな味方になってくれます。そういうものだと思います。


– 挑戦するマインドを作るには?

松波さん:私は、まず最悪の事態を想定して、先にそれを受け入れてしまいます。クビになってもかまわないと思うことで、失うことを恐れなくなる。加えて、「場」と「仲間」が必要ですね。

留目さん:そもそも多くの会社で固定化された考え方は、工場労働に由来します。ですが、今は工場はオートメーション化され、オフィスでの働き方が中心になった。今の働き方も、テクノロジーの進歩で変わっていくと思います。これは悲観的なことではなく、逆にラッキーなことと捉えたい。もっと知的に考えなくてはならない部分により多くの時間を使うことが出来るようになるから。経営者は、闘い方が変わってきていることを理解しないといけない。Amazonは、実は利益率がとても低い。しかし世の中での価値が上がり、急速に売り上げを伸ばしている。これこそまさにネットワーク効果の考え方。経営者が株主に対して自信を持って説明をしなくては、新規事業を存続することができない。経営者の「挑戦するマインド」とは、そういうことからなのでは。


– お2人にも「壁」はある?

松波さん:私の場合、「壁」ではなく「ハードル」と認識しています。「どうせあるのだから」と受け入れ、楽しく超えようと思っている。周りがあきれるくらい好きなことだけすることで、自分のモチベーションは保てます。

留目さん:経営の立場から話すと、個々人は悪い人じゃなくとも、組織になると「壁」になる場合がある。経営側から「壁」を外してあげるにはどうすればよいかを考えるべきです。


– これからの時代に備えて、身につけるべきスキルとは?

留目さん:いろんな人とフラットに付き合うこと。とっつきにくい人の方が、実際話してみると面白かったりします。覚悟がいることでもあるけど、実は自分の方から「壁」を生み出していたなんてこともある。それを乗り越えていく力が必要だと思います。

松波さん:誰からでも学ぶということ。例えば相手が年下でも、違う意見でも、受け入れる。そして、自分を理解すること。あとは組織外の人と接することも大切です。

ワークショップ「壁を壊す」

 後半は、LEGO®SERIOUS PLAY®(レゴシリアスプレイ)を用いたワークショップです。簡単なアイスブレイクを通して「事実と解釈は別物」という前提を体感した後、「イノベーション」と「イノベーションを阻む障害」をレゴブロックで表現し、チーム内で発表します。しがらみのないフラットな関係性のもと、「なぜこの色を選んだのですか?」「この人がこっちを向いているのはどういう意味があるのですか?」などの問いに真摯に答えていくことで、これまで気づかなかった“壁”の別の面に気づいていく人も。

 最後は、INTO THE FABRIC成田によるグラフックレコーディングでイベントを振り返りました。

毎日の料理を楽しくするスマートキッチン体験をプロトタイピングする
・日 時:2018年6月30日 (土) 〜 2018年7月14日 (土)
・会 場:TechShop Tokyo
・人 数:20名
・主催:クックパッド株式会社、株式会社LIXI、テックショップジャパン株式会社

・INTO THE FABRICメンバー:
 ファシリテーター 木継 則幸
 ディレクション 高嶋 大介
 ライティング 宮川 歩