コロナ禍での働き方を考えることで、生き方を模索する

新型コロナウィルスの影響により、テレワークが徐々に浸透しつつあります。家で過ごす時間が増えたことで、改めて自身の働き方を見直した方も多いのではないでしょうか。誰にとっても激動の年になるであろう2020年ですが、

・今後の働き方はどうなっていくのか?
・この変化をどう乗り切ればいいのか?

そんな疑問や不安を一緒に考えていくためのイベントが、8月4日にオンラインで開催されました。今回ゲストにお迎えしたのは、働き方スペシャリストの成瀬岳人さん

このレポートでは、成瀬さんのお話に加え、参加者のQ&Aも交えながら今後の働き方について模索したイベントの一部始終をお伝えします。

▼目次

テレワークの現状
コミュニケーションに最適解はない
マネジメントの方向性の変化
Q&A
最後に

成瀬岳人さんは、業務コンサルタントとして複数プロジェクトに従事した後、パーソルプロセス&テクノロジーで、ワークスタイル・コンサルティングサービスを立ち上げ複数社の労働時間改善やテレワーク導入を支援しています。また、国や自治体のテレワーク普及促進共事業の企画・運営責任も担うなど、早い段階から働き方改革を推進してきました。

テレワークの現状

そんな成瀬さんに、まずはコロナ禍でのテレワークの現状を伺いました。

「働き方に関しては、オフィス、テレワーク、両方が混合したパターン。この三極化が進んでいます。そして興味深いのは、世代、商流、上司の3つの要因によって分岐が起こっていることです。」

成瀬さんが所属するパーソルグループの手掛けた調査結果によると、

若い世代ほど今後のテレワーク継続希望率は高い

ということが、データから見てとれます。

また、日々行っている様々な業種の企業向けコンサルティングから

・金融、保険、公共関係の業界、ビジネスモデル等によってはテレワークが難しい仕事も存在する。

・管理職はオフィスにいるべき、と考える企業がまだ多い。

といった傾向が見えてきました。

これらの特徴によって、三極化が進んでいるとのこと。

(出所:パーソル総合研究所 緊急事態宣言解除後のテレワークの実態
https://rc.persol-group.co.jp/news/202006110001.html

「私がコンサルタントとして相談を受ける中で、不思議に感じたのは3つ目です。これは、管理職の方がそう思っている場合もあるし、経営層が求めている場合もあります。ただ、どちらにしろ”なんとなく管理職はオフィスにいた方がいい”なんです」

はっきりとした理由はないけれど、オフィスに人はいた方がいい。

どことなく漂うそんな風潮の背景には、

「遠隔でやりとりすることにハードルを感じる……」

「みんなの仕事の成果が目に見えづらい……」

といった、マネジメント層の意識が関係しているのかもしれません。

そこで次に、テレワークにおけるコミュニケーションの形は今後どうなっていくのかを伺いました。

コミュニケーションにおける最適解はない

参加者にまず共有くださったのは、テレワーカーの不安要素をグラフに表したもの。

(出所:パーソル総合研究所 テレワークにおける不安感・孤独感に関する定量調査
https://rc.persol-group.co.jp/research/activity/data/telework-anxiety.html

このデータから

・相手の気持ちが察しにくい

・サボっていると思われないかどうか

といった項目が全体のおよそ4割を占めていることが分かります。

成瀬さん曰く

いわゆる「コミュニケーション」と呼ばれる言葉には、

・関係性構築の観点

・業務上のやりとりという観点

・上司と部下間の、仕事の成果に関する報連相という観点

といったように、いくつかパターンが存在します。

「先ほど4割近くを占めていた不安要素は、これらの観点が全部混じったものだと思います。そのため、結論として言えることは『一概には言えない!』ということです。コミュニケーションの目的別に、方法や考え方を変えるなりしていかないと、不安は払拭されないというのが私の考えです」

じゃあ、やり方は無数にあるってこと……?

やっぱり、一人ひとりに合わせた細かい配慮が必要なのか……?

と思われた管理側の方もいることでしょう。

働き方が変わればマネジメント方法も変わらざるを得ない。

ということで、次は成瀬さんに今後のマネジメントのあり方に関して伺いました。

マネジメントの方向性の変化

成瀬さんは、

これからは管理型マネジメントから支援型マネジメントへの移行が重要になってくると語ります。

「今までは管理型マネジメントの方が効率がよかったと思いますが、今テレワークのマネジメント負荷が大きくなっているのはこれが原因なんです」

どういうことか。まず前提として、メンバーはそれぞれ個々に事情があります。複業をしている、週3勤務、お子さんがいる、まだ新人……etc。そういった多種多様なメンバーを全て一律に管理統制するのは無理があるということ。ましてやテレワークなら尚更です。

そのため「進み方は人それぞれだけど、ゴールだけはみんなで設定する必要がある」というのが成瀬さんの考えです。

ここで勘違いしてはいけないのは、

過度に干渉したり、逆に放置状態にもなってはいけないということ。支援型マネジメントは、そのどちらでもありません。

「この黄色い矢印は『下から上へ』ではなく『後ろから前へ』という意味です。チームの向かうべき方向性が定まっている状態。この矢印を描くのがマネジメントの仕事です」

この矢印を描くために必要なことは、サーバント(使用人・召使い)のような役割ということか?と聴き手が尋ねると、

「現場の先端にいるメンバーを信じてサポートすることが基本的なスタンス。メンバーを信じなければ、支援型のマネジメントはできない」と成瀬さんは言い切り、経験に裏打ちされた力強さを言葉に込めました。

Q&A

成瀬さんのお話を一通り終えたところで、参加者の方からの質問を受け付けました。チーム内でのコミュニケーション、テレワーク中の悩みに関するものなど、多種多様な質問が飛び交います。

その中で

「マネージャーとメンバーの間で、いい関係性を構築するのに必要なことはなんでしょう?」

という質問がありました。

これに対する回答として、成瀬さんはキッパリと「頻度」と言い切ります。

「頻度高くやりとりをして、お互いに自己開示を行うことが必要です。これをせずに相手の中に踏み込みすぎたり、タイプを把握せず関係性を作りにいくと失敗する可能性があります。理想の形は、上司部下間だけでなくチーム内でも開示し合っていることですね」

また

「管理型と支援型のマネジメントは必要とされる素質が違うのではないでしょうか? 型にはめる管理型と違い、支援型は共感する力がないといけないのではと感じます」

という、一歩踏み込んだ質問も。

「素質という意味では、まず支援型マネジメントの土壌を作る上で必要な要素があります」

と前置きしながら成瀬さんは、

・良好な関係の質

・心理的安全性

・情報の透明性

の3つを挙げました。

「これらは確かに『共感』につながる点があります。チームが目指す目的、個人がどう成長したいのか、メンバー個々の役割、といったものがしっかり共有されることで、支援型マネジメントは形作られていくと考えています」

最後に

イベントの締めの言葉として、成瀬さんは

「働き方を考えることは生き方を考えることと同じ。オンライン化が進んでいる今は、様々なイベントへ参加することのハードルが下がっています。なので、自ら発信者側に立つ機会を設けると、自分にとっていい変化になると思います」

と語ってくださいました。

人の数だけ働き方がある。それはつまり、理想の生き方へのヒントもそれだけ存在するということ。選択肢が広がりつつある今だからこそ、自身の働く環境、周りとの関係性や理想像について改めて話し合ってみるのもいいかもしれません。

▽イベント開催概要
日 時:2020年8月4日(火)20:00~21:30
人 数:20人

▽聴き手/パネラー
田中 優子
2級キャリアコンサルタント技能士
IT企業で人材採用から育成、組織開発、社員主体の新たな価値創造に取組む。人々の緩やかなつながりから多様性を活かし、歓びあるみらいを創ることを大切に、社内外で対話会、場づくりの企画設計やワークショップを提供。

▽進行
井澤 友郭
ワークショップ デザイナー
LEGO(R)SERIOUS PLAY(R)公認ファシリテーター
2003年から「正解のない課題」に「探求的に挑戦し続ける」人材の育成を目的とした、オルタナティブな教育プログラムを開発。企業や研究機関と連携したプログラムを年間150回ほど開催し、ファシリテーターとして延べ2万人以上の学生や社会人を指導してきた。そのプログラムは、デザイン思考やナラティブ・アプローチ、経験学習など、さまざまなメソッドを取り入れており、主体的な人材を育てるためのプレイフルな学びの場として定評がある。

(ライター:遠藤 淳史)